『現代ファイナンス』バックナンバーNo.11(2002.3発行)

■わが国銀行業の効率性の検討*
―フロンティア費用関数の推計を通じて―
大阪大学大学院経済学研究科博士課程 國方 明

[要約]

本論文は,フロンティア費用関数という手法を利用して,わが国の銀行業の非効率性を推計している.先行研究と比べて本論文はTFAとDFAという比較的新しい推計方法を採用して,推計結果を比較しているという特徴をもつ.分析対象は1989~1996年度の都銀・地銀・第二地銀である.本論文の結論は以下のように要約される.

(1)TFAとDFAの非効率性の水準はほぼ等しく,順位にも正の相関関係が観察された.ただし,外部指標や計量経済学の理論との整合性を検討すると,TFAの方が優れていると考えられる.

(2)先行研究と同様に,規模の経済性が観察されたが,Scale Inefficiencyは期待された符号を取らなかった.

(3)範囲の経済性について考察すると,フィー・ビジネスでは観察されず,その一方でフロー・ビジネスについては観察期間の前半で範囲の不経済性が,観察期間の後半では範囲の経済性が観察された.

*本論文は,中央大学大学院(経済学研究科)に提出した修士論文を加筆・修正したものである.本論文の作成にあたり,首藤恵教授,川島康男教授,今川健教授(以上中央大学),米澤康博教授(横浜国立大学),筒井義郎教授(大阪大学),MEW研究会,また本誌エディター,レフェリーから大変有益なコメントをいただいた.ここに記して感謝したい.もちろん本論文で述べられている見解やありうべき誤解などは,一切筆者の責任である.



■金融派生市場の導入と原資産市場の流動性*
―日経平均株価先物取引の事例―

一橋大学大学院経済学研究科 井坂直人

[要約]

本研究は,1988年の大阪証券取引所における日経平均株価先物取引導入が日経平均構成銘柄の市場流動性に及ぼした影響を検証するものである.銘柄ごとにマーケット・インパクトを推定し,得られたマーケット・インパクト推定値を用いたクロスセッション分析により,日経平均株価先物取引導入後に日経平均構成銘柄の市場流動性が低下したことが検証された.この結果は,米国の既存研究で報告されている株価先物取引導入による現物市場の流動性低下と整合的であり,また,株価レベルが低く,日経平均株価指数に占めるウェイトが小さいと考えられる銘柄において流動性低下の度合いが顕著であることから,個別銘柄市場における情報の非対称性が市場流動性の低下を引き起こすとするSubrahmanyan[1991]の理論モデルとも整合的な結果である.

*本稿は,大阪大学大学院国際公共政策研究科に提出した修士学位論文を修正したものである.齊藤誠教授,Colin R. Mckenzie教授には懇切丁寧にご指導いただきました.また,本誌レフェリー及び編集者の新井富雄氏には大変有益なコメントをいただきました.ここに謝辞を申し上げます.



■ストックオプションと株式所有権構造

京都大学経済学研究科博士課程 阿萬弘行

[要約]

本稿の目的は,ストックオプション制度と株式所有構造の関係について,日本企業を対象として実証的に分析することである.1997年の本格的なストックオプション解禁以来,この制度を採用する企業は増え続けている.しかし,学術的な分野において,同制度の経済学的研究を行っているものは極めて少ない.特に,ストックオプションが株主利益の実現を主目的とする以上,その株主構成が与える影響について分析することが主要なテーマである.すべての株主は同一の利害を共有しているわけではなく,実際の株主構成を見ればグループ間の利害の不一致が一般的現象である.とりわけ,本稿が注目するのは,株式を保有しつつも,債権保有によって,一般の株主とは異質な利害関係をもつ金融機関,そして,ストックオプションと類似の機能をもつと予想される役員持ち株である.計量分析によって以下の結論を得た.第一に金融機関持株比率の上昇がストックオプション依存度を低下させる.第二に役員持株比率の上昇はストックオプション依存度を低下させる.