『現代ファイナンス』バックナンバーNo.21(2007.3発行)

■株式市場への限定的参加を考慮した消費CAPMの再評価*
- 資産保有マイクロ・データによる実証分析 -
カリフォルニア大学サンディエゴ校博士課程  海道宏明
 

[要約]

本稿は株式保有者と非保有者の消費行動の差異を明らかにすることで,消費に基づく資産価格モデル(消費CAPM)の日本におけるパフォーマンスを再評価する.資産保有についてのマイクロ・データである日経RADAR(金融行動調査)によれば1985年から2002年にかけて株式を保有している家計は全体の約25%にとどまっていた.本稿は日経RADARを基に家計の非同質性(世帯属性,教育水準,ライフ・ステージ)を制御した擬似的なコーホート・データを構築した.擬似コーホート・データからは,株式保有に対する蓋然性という基準に基づき株式保有者と非保有者を厳しく分類した場合には株式保有者の中年期消費成長率が非保有者に比べ2~5倍強く株式プレミアムと相関していることが明らかとなった.それに対し株式非保有者の消費成長率が一生を通じて株式プレミアムと強く相関しているという傾向は見られない.検証結果からは中年期には,株式保有者が消費CAPMと整合的な資源配分を行っている可能性が示唆される.

*本稿は,著者が一橋大学大学院経済学研究科修士課程在籍時に執筆した修士論文を基礎としている.本稿の作成にあたっては,齊藤誠先生(一橋大学大学院経済学研究科)と祝迫得夫先生(一橋大学経済研究所)のご指導を頂いている.齊藤先生には,ご多忙の中で本稿の問題意識,推計アプローチ,結果の解釈に至るまで多くの時間を割いて議論して頂くとともに,有益なアドバイスを頂いた.祝迫先生には日経RADARを利用させて頂くとともに,データの扱いや計量経済学的な手法について議論させて頂いた.ここに両先生への謝意を記したい.また,マイクロ・データの推計手法についてアドバイスを頂いた阿部修人先生(一橋大学経済研究所)ならびに有益なコメントを頂いた匿名のレフェリーと編集者である谷川寧彦先生,一橋大学マクロ・金融ワークショップの参加者にも感謝したい.なお本稿に含まれる誤りは全て著者のものである.



■わが国社債市場のクロスセクション分析

野村證券金融経済研究所金融工学研究センター  内山朋規
 野村證券金融経済研究所金融工学研究センター  濱田将光

[要約]

個別銘柄データを用いて,わが国の普通社債のクレジットスプレッド変化やリターンのクロスセクションにおける様々な特徴を実証する.結果として,クレジットリスクの低い社債では前月スプレッド変化や国債イールド変化といった割引率が社債スプレッド変化の銘柄間格差に重要な変数である一方,クレジットリスクの高い社債では株価リターンや株価ボラティリティが重要な変数であることを示す.また,クレジットリスクが高い社債ではスプレッド変化にモメンタム効果がある一方,クレジットリスクの低い社債ではスプレッド変化にリバーサル効果があること,さらに,社債リターンには株式市場とは逆のモメンタム効果が観察され,クレジットリスクの高い社債で顕著であることが分かる.また,クレジットリスクの高い社債では,株価が社債スプレッドや社債リターンに先行し,株式市場は社債市場よりも早く情報を価格に反映する傾向があることなども示す.

*本稿の作成にあたり木島正明教授(京都大学/首都大学東京)および匿名のレフェリーから多くの助言や貴重な指摘を頂戴した.記して謝意を表したい.もちろん,本稿における全ての誤りは筆者に帰する.



■わが国企業の株価認識と財務行動
─サーベイ・データにもとづく実証分析─*

青山学院大学経済学部  芹田敏夫
 一橋大学大学院商学研究科  花枝英樹

[要約]

わが国全上場企業に対して,株価に対する認識及び配当政策・株式分割を中心とした財務行動についてのサーベイ調査を行い,773社の回答を分析した.わが国の多くの企業では,株価の絶対水準が高いことを望ましいという考え方を持っており,このような株価についての認識が株式分割・くくり直し(株式売買単位の変更)に大きな影響を与えていることが明らかになった.株価を望ましい範囲内に収めるために株式分割を行うという動機は弱く,株式分割の主な理由は,小口の個人投資家を引きつけること,流動性を高めることにある.くくり直しの期待される機能は株式分割と類似しているが,株主数を増やす目的が特に強い.配当政策については,配当を安定的に維持する傾向が強く,投資需要との兼ね合いで配当を調整する意識は乏しい.また,自社株買いは,株式持ち合い解消の受け皿や需給の改善のために用いられ,株主への弾力的な利益還元策としての意識は弱い.

*本論文は日本学術振興会科学研究費補助金(基盤研究(B),課題番号14330033,研究代表者花枝英樹)の研究成果の一部である.サーベイ調査(題目『株価と企業財務に関する実態調査』)の質問票作成については,同補助金の他の研究分担者である宮川公男(麗澤大学),広田真人(首都大学東京),木村由紀雄(目白大学)の諸氏も参加して行われたが,サーベイ調査結果の分析と本論文の執筆は芹田,花枝が担当した.本論文に誤りがあるとすれば,それはすべて筆者ら2人の責任である.なお,草稿に対して広田真人氏と本誌レフリーから有益なコメントを頂いた.感謝申し上げたい.



■生産設備に対するウェイティング・オプション効果と限界資本コスト*
 

南山大学経営学部  赤壁弘康

[要約]

本論文は,生産能力に物理的な限界を持ち,生み出される収益にビジネス・リスクを含むような(特定の製品を生産する)生産設備に対するウェイティング・オプション効果を論じたものである.当該生産設備の現在価値を明示的な形で導出することによって,設備の最適稼動期間(したがって,ウェイティング・オプション効果)を明示的に議論した.次に,シミュレーションによって当該設備の収益率を計測し,設備の収益性に及ぼすビジネス・リスクの効果を論じた.

*本稿の作成に当り,匿名の査読者から貴重なコメントを頂戴したことに感謝を申し述べたい.いうまでもなく,本稿に残されている誤謬は筆者の責に帰する.