■リレーションシップ型金融仲介の経済分析
[要約]
本稿では,リレーションシップ型金融仲介に関する国内外の経済学的な理論・実証分析を概観し,リレーションシップ型金融仲介の概念とその経済合理性について,一定の整理を試みる.これを踏まえて,最近国内で急速に進展した金融機関の経営統合,あるいは,クレジットスコアリングや市場型間接金融の普及が,リレーションシップ型金融仲介に与える影響について考察する.
■日本の株式市場の予測可能性
立命館大学経営学部 青野幸平
[要約]
本論文では,日本の株式市場において,TOPIX から計算される株式収益率に予測可能性があるか否かを明らかにすることを目的に,Campbell[1991] に倣ってCampbell/Shiller[1988] の対数線形近似の手法と分散分解の手法を利用した分析を行った.日本における超過収益率の分析の結果,予期されなかった株式超過収益率の変動の分散に対して貢献を比較すると,いずれのサンプルにおいても将来の配当支払に関する期待の見直しの分散が大きく貢献しているものの,将来の超過収益率に対する期待の見直しの分散も一定程度の貢献が確認出来るという結論を得た.また,超過収益率の予測方程式に構造変化がある可能性も分析し,1989年12月に構造変化の可能性が観測され,構造変化点以降のサンプルの方が,超過収益率についての予測可能性に関して,安定的な結果を得られている事が発見された.
■日本の株式市場におけるボラティリティの長期記憶性とオプション価格
早稲田大学商学研究科 竹内(野木森) 明香
一橋大学経済研究所 渡部敏明
[要約]
近年,資産価格のボラティリティには長期記憶性があるとの指摘が数多くなされている.そこで本稿では,日経225株価指数のボラティリティに長期記憶性があるかどうか,またボラティリティの長期記憶性を考慮することで日経225オプションの価格をより正確に捉えることができるかどうか分析を行った.さらに株式市場では,価格が上がった日の翌日よりも下がった翌日の方がボラティリティは上昇する傾向があることが知られているため,ボラティリティの長期記憶性に加え,そうした非対称性も考慮できるFIEGARCHモデルを用いて分析を行った.異なる78の期間で擬似尤度に基づくLM検定を行った結果,多くの期間でボラティリティの長期記憶性と非対称性が検出された.また, FIEGARCHモデルを用いることで実際のオプション価格より正確に捉えられることも明らかになった.
■TOPIX収益率のマルコフ・スイッチング非対称確率的ボラティリティ変動モデルによる分析
―順列サンプラーによる探索―
東京大学大学院経済学研究科 石原庸博
東京大学大学院経済学研究科 大森裕浩
[要約]
株式や株価指数等の危険資産収益率のボラティリティ変動モデルとして確率的ボラティリティ変動モデルがしばしば用いられており,そのあてはまりの良いことが知られている.本稿では,収益率の低下が翌日のボラティリティの上昇を引き起こすという非対称性を考慮した確率的ボラティリティ変動モデルにおいて,ボラティリティの2つの状態間の移動がマルコフ過程に従うとするマルコフ・スイッチングモデルをTOPIX収益データに適用して実証分析を行った.パラメータの推定にはマルコフ連鎖モンテカルロ法を用い,更に順列サンプラーを追加することで,どのパラメータにスイッチが起こるのかを探索的に明らかにし,候補となるモデルの絞込みを行った.またスイッチの無いモデルを含めた複数のモデルを推定し,モデルの比較・検討を行った.
■社債流通市場における社債スプレッド変動要因の実証分析
青山学院大学経済学部 白須洋子
早稲田大学大学院ファイナンス研究科 米澤康博
[要約]
本稿は,1997年から2002年前半までのいわゆる金融逼迫時における国内社債流通利回りの対国債スプレッド(社債スプレッド)変動を実証的に分析し,その変動要因を明らかにすることを目的としている.分析の結果,金融逼迫時等の状況下では,投資家は,より流動性のある社債又は国債へ,あるいは,より安全性の高い高格付け債に資金需要を逃避させる,いわゆるflight to liquidity あるいはflight to qualityと言われる現象が見受けられた.前者は流動性制約を有する投資家の流動性需要によって,後者は投資家の危険回避度の高まりによってそれぞれ説明できることがわかった.また両現象のうちflight to liquidityの方が強いことも明らかになった.
流動性に関しては,これまでの分析はマーケット・マイクロストラクチャーの視点から見た,執行コストを分析の対象としたものであったが,本稿は投資家の流動性需要という価格に直接的に影響を与える要因を取り上げた点に特長があり,従来の実証分析とは大きく異なる.
■日本企業の配当政策・自社株買い
─サーベイ・データによる検証─
一橋大学大学院商学研究科 花枝英樹
青山学院大学経済学部 芹田敏夫
[要約]
わが国全上場企業を対象にペイアウト政策についてのサーベイ調査を行い,回答企業 629社の分析から,日本企業の平均的な認識としてつぎのような結果を得た.配当決定については,一時的な利益の変動では配当を変化させず,長期的に増益が見込めるときに初めて増配する.配当決定は投資決定とは独立に行われている.また,減配回避の考えが非常に強い.一方,自社株買いは配当と比べれば柔軟性をもって決められているが,まだ,本来の役割についての理解が十分でない.現金配当についてはフリーキャッシュフロー仮説を支持しないが,自社株買いについては同仮説を棄却できなかった.ペッキングオーダー仮説,ライフサイクル仮説については,配当,自社株買いともに支持されなかったが,情報効果仮説については,配当・自社株買いとも支持する結果が得られた.ペイアウト政策を敵対的買収防止手段として考えている企業が多く,株主構成の違いもペイアウト政策の意識に影響を及ぼしている.