『現代ファイナンス』バックナンバーNo.25(2009.3発行)

■売買単位の変更と株式収益率
明星大学経済学部  井坂 直人
  吉川 浩史
 

[要約]

本稿では,2001年10月から2005年3月の期間における日本企業による売買単位の変更(くくり直し)が株式収益率に及ぼす影響を検証している.くくり直しは企業のファンダメンタルズとは無関係であるにもかかわらず,売買単位引き下げのアナウンスから実施週にかけて市場収益率を平均4.94%上回る株価上昇が観察されている.本稿では,くくり直し前後1年間の株式収益を分析することにより,(1)くくり直し前の株式収益率には固有リスクに対するプレミアムが反映していたこと,(2)売買単位の引き下げにより,個人株主が増加し,固有リスク分散が進んだ銘柄ほど,プレミアムが低下していたこと,(3)小型株では固有リスク分散によるプレミアム低下の度合いが高いことを明らかにしている.これらの実証結果は,売買単位を引き下げて個人株主の参入を促すことが,固有リスクの分散を通してプレミアムを低下させる効果を持つことを示している.



■消費者金融業の競争度

大阪大学大学院経済学研究科  窪田 康平
 大阪大学大学院経済学研究科  筒井 義郎

[要約]

本論文の目的は,業界団体が実施したアンケート調査を用いて,日本の消費者金融市場の競争度を計測することである.まず,費用関数を推定し,大きな規模の経済性を確認した.市場の競争度については,ラーナー指数,市場均衡タイプ,結託度,H統計量を推計し,どの方法によっても,消費者金融市場が独占的であることを明らかにした.また,金利競争も店舗展開を通じた数量競争も行われていないことを確認した.さらに,消費者金融市場が独占的となる理由を分析し,新規顧客の市場においては,情報の非対象性,上限金利規制,借り手の双曲割引によって特徴づけられ,このことが市場を独占的にしていることを指摘した.一方,既存顧客市場においては,貸し手を変更することに伴うスイッチングコストが市場を独占的にしている可能性を明らかにした.これらの結果は消費者金融業の競争政策を議論する上で重要な知見である.



■確定拠出金における継続投資教育の効果:実験による検証


ニッセイ基礎研究所金融研究部門兼保険・年金研究部門  北村 智紀
ニッセイ基礎研究所保険・年金研究部門  中嶋 邦夫

[要約]

確定拠出年金の加入者に対して,運用の基礎知識を内容とする継続投資教育を行う統制実験(Controlled experiment)を実施した.継続教育を実施しなかったグループと比較して,継続教育を実施したグループでは,現在の株式への資産配分と比べて,今後の株式への資産配分は増加した.増加の程度は,継続教育の実施方法により異なり,パンフレットを送付したグループよりも,講師とのコミュニケーションが図れるセミナーに参加したグループの方が増加の程度は大きかった.また,継続教育の効果は現在の株式への配分が低い者ほど効果が高かった.継続教育により資産運用に関する基礎知識が高まったことが,株式への配分増加の主な理由と考えられるが,継続教育には知識を高める以外の効果もあることも観察された.