『現代ファイナンス』バックナンバーNo.30(2011.9発行)

■企業年金財政と株式リターン
東京経済大学経営学部  柳瀬 典由
Moore School of Business, University of South Carolina  後藤 晋吾

[要約]

本稿の目的は,年金資産の積立率による株式リターンの予測可能性を,2000年度から2008年度までの日本企業のデータを用いて検証するとともに,その予測経路が将来の掛金負担の増加や追加拠出の「可能性」を通じたファンダメンタルズへの影響に関連しているかどうかを探ることにある.実証分析の結果,第一に,直近の実現リターン,株式時価総額,簿価/時価比率,退職給付債務に関する割引率,会計的発生高,総資産営業利益率及び業種ダミーをコントロールした上で,積立率は低い株式リターンを予測するが,その予測力は翌四半期,せいぜい翌半期に限られることがわかった.第二に,株式市場に関連する変数をコントロールしたうえでも,積立率は将来のファンダメンタルズを強く予測することがわかった.第三に,サンプルを積立率の高低で二分した場合には,積立率のリターン及びキャッシュフロー収益性の予測力は,それが低いグループでのみ確認された.



■ストック・オプション導入の決定要因―日本の新株予約権方式統一後における再検証―
 

東京経済大学経営学部 安田 行宏
 東京経済大学経営学部 金 鉉玉
エム・アーム研究所 長谷川 信久

[要約]

本稿の目的は,新株予約権方式に統一された後の日本のストック・オプションについて実証的に分析を行うことである.具体的には,2004年以降の日本企業のデータを用いて,ストック・オプション導入の決定要因についてロジット・モデルを用いて検証する.これまでの先行研究と異なる本稿の主な実証結果としては,キャッシュ・フロー指標でみた財務流動性の低い企業ほどストック・オプションを導入している点である.近年の業績低迷などを背景に,手元流動性の確保などのために導入がなされている可能性を示唆している.また,2006年の5月1日以降に付与のストック・オプションに適用されることになった会計費用計上の義務化は,財務報告コストの高まりからストック・オプションの導入に対して負の影響がある一方で,義務化以降においては収益性の低い企業がむしろ積極導入している点である.
 


■モーメント法を適用したバリア型アプローチによるデフォルト確率評価法の提案とその実証分析
 

東京理科大学経営学部  三宅 正敏
 東京理科大学経営学部  井上 洋

[要約]

企業の資産価値を株主資本と負債価値のポートフォリオとみなし,その平均および分散といった1次・2次のモーメントを推定した.このとき評価期間における変動がそのモーメントの動きに一致しながら,かつ幾何ブラウン運動に従う新たな変数を仮定し,その変数を企業の資産価値と見なすモーメント法を適用し,バリア条件を入れたデフォルト確率,EDP(Expected default probability)評価モデルを提案した.その結果,従来の資産価値パラメータ評価法によって得られたEDPに比べ容易に評価が可能となっている.さらに実証分析としてデフォルト企業について両手法を用いてプレーン型およびバリア型についてのEDPを評価し比較を行った.両手法共にEDPの時系列的な変化および企業間の差異など同様の傾向を示している.またプレーン型アプローチでは両手法で評価された数値が非常に近い値を示した.さらにバリア型アプローチでは今回の手法のEDPが従来の手法に比べ安定した評価が行われている.