■パーティクルフィルタによる4ファクター確率ボラティリティ金利モデルの推定と債券アービトラージ戦略への応用
みずほフィナンシャルグループ 島井 祥行
[要約]
真に安定的な債券アービトラージ戦略は存在するのだろうか.それを確認するため,本稿では次の三段階を踏む.第一に,イールドカーブの再現性の高い4ファクター確率ボラティリティ金利モデルを新たに提案する.第二に,金利モデルを一般化状態空間モデルで表現し,状態推定やパラメータ推定の手法としてLiu/West[2001]のパーティクルフィルタが適用できることを明らかにする.数値例として円スワップ市場を対象に推定を行い,パーティクルフィルタの実用性を示すとともに,情報の少ない円スワップ市場の特徴について考察する.第三に,新しい債券アービトラージ戦略を提案する.これは,OASを時価ベースで加重平均したものをミスプライスと定義し,その平均回帰性に賭ける戦略である.また,投資戦略の一部として,半減期の情報から売却ポイント・投資ホライズンを理論的に定めるトレーディング手法を導入する.
■ペイアウト政策のエージェンシーコスト
東京福祉大学社会福祉学部 土村 宜明
三井住友信託銀行パッシブ・クオンツ運用部 大森 孝造
[要約]
本論文は,経営者によるペイアウト政策の選択を分析する.配当と自社株買いはいずれも企業から投資家への利益分配であるが,後者には株主構成を変える効果がある.特に,外部投資家からの自社株買いは,経営者の持分を増やしてその行動をより効率的にする場合がある.本論文は,そうした状況で,自社株買いは経営者によって選択されるか,を考察する.
分析の結果,自社株買いによる企業価値の増加は株価の上昇を通じて投資家に一部が吸収されてしまうため,経営者は自社株買いよりも配当を選好することがわかった.このような経営者行動によって,ペイアウト政策が前もって決まっていないことからエージェンシーコストが生じる.この非効率性は,普通株式の発行や債券契約といった単純な方法では解決されない.
■財務意思決定の権限委譲と投資資金配分
-サーベイ調査による分析-
中央大学総合政策学部 花枝 英樹
青山学院大学経済学部 芹田 敏夫
[要約]
財務意思決定の権限委譲と企業内投資資金配分に関する日本の全上場企業へのサーベイ調査の結果,以下の4点が明らかになった.第1に,6つの財務意思決定の中では,M & Aの権限委譲の程度が最も低く,逆に,設備投資とR& D投資の意思決定の権限委譲が最も高かった.第2に,トップ経営陣の負担度や企業の複雑性が増すにつれ,権限委譲が進むことが確かめられた.第3に,事業部門間の投資資金配分に際して企業が重要視する要因は,「マーケット・シェアの維持」,「事業部門長の新規投資に対する確信」,「プロジェクトのキャッシュフローのタイミング」,「各事業部門の過去の投資の収益性」であり,「プロジェクトのNPVに基づくランキング」は重視度が低い.一方,「事業部門間の公平なバランス」は重視割合が低かったが,米国企業と比べると相対的に重視している.第4に,権限委譲の程度や資金配分で重視する要因の違いが,企業パフォーマンスに影響を及ぼしている可能性が示唆された.