『現代ファイナンス』バックナンバーNo.35(2014.7発行)

■担保差し入れが不完全な状況におけるデリバティブ価値の評価について

みずほ第一フィナンシャルテクノロジー  白谷 健一郎

[要約]

本稿では,倒産リスクを有する契約当事者間におけるデリバティブの相対(over-the-counter)取引に関し,担保差し入れが不完全な状況,特に,「担保差し入れが無い場合」及び,「担保差し入れまでに時間的遅れ(タイムラグ)があり,かつ担保資産価値が,対象となるデリバティブ価値以外の要因で変動する場合」について,5次元の確立微分方程式により記述されるモデルを用い,各要因がWTI先物を原資産とするオプション価格に与える影響を分析する.さらに,WTI先物とBrent先物のバスケットオプション価格に関する分析も行う.



■取引システム高速化と始値形成

大阪大学大学院経済学研究科/金融・保険教育研究センター  太田 亘

[要約]

東京証券取引所は,2010年1月に取引システムを高速化したが,それが立会開始前の投資家の発注行動および始値形成に影響を与えたかについて分析した.高速化によって注文の発注およびキャンセルを短時間に確実に行うことができるようになると,情報投資家が開始直前に発注を集中させるとともに,始値の情報効率性が低下する可能性がある.注文不均衡及び価格変化に関する分析において,それと整合的な変化が観察されたものの,高速化の半年経過以降は元の状態に戻っており,変化が継続していない.そのため,情報投資家は立会開始直前の発注を選好する,とはいえない.一方,注文キャンセルが自由にできると価格形成が阻害される,と議論されることがある.これに関する推計結果からは,高速化後に,立会開始前の大口注文の発注キャンセルが始値形成をより歪めるようになった,とはいえない.



■従業員処遇と資本構成

東京理科大学経営学部  佐々木 隆文
 中央大学総合政策学部  花枝 英樹
 

[要約]

本稿では,2006年3月期から2011年3月期までの従業員処遇データと翌期の財務データを用い,従業員処遇と資本構成との関係を分析した.実証分析の結果,従業員処遇に積極的な企業は低いレバレッジを選択する傾向があること,そのような傾向は,R"&"D投資に活発で無形資産が重要と考えられる企業で強くなることが明らかになった.この結果は,従業員処遇に積極的な企業が,人的資本への投資の効果を損なわないために低いレバレッジを選択していることを示唆している.また,本稿は従業員処遇と夫妻構成との関係も分析し,人的資本という無形資産への投資に積極的な企業は,銀行借り入れよりも社債による資金調達を選好している傾向を確認した.この結果は人的資本という無形資産に積極的な企業では,担保が必要な銀行借入よりも無担保社債による資金調達が適していること,資金調達手段の多様化による間接的倒産コストの抑制が望ましいことを示唆している.