『現代ファイナンス』バックナンバーNo36(2015.6発行)

■Feltham-Ohlsonモデルの実証研究
関西大学商学部  太田 浩司
 大和証券投資戦略部  斉藤 哲朗
 大和証券投資戦略部  吉野 貴晶
 

[要約]

本研究では、わが国におけるFeltham-Ohlson(FO)モデルの妥当性を、Ohlsonモデルと比較する形で検証している。最初に、係数推定値の点では、両モデルとも概ね理論的予測と一致していた。そこで、現在の株価説明力と将来リターン獲得力の観点から両モデルを比較した所、FOモデルはOhlsonモデルよりも推定正確度が有意に高く、現在の株価に対してより高い説明力を有していた。一方、将来リターン獲得力に関しては、リスク調整していないリターンを用いた場合にはFOモデルがOhlsonモデルを上回っていたが、リスク調整済みリターンを用いた場合には両モデルとも将来リターン獲得力を有さなかった。これらの結果は、両モデルの差が明確ではない米国の先行研究とは異なり、わが国におけるFOモデルの優位性を示すものであるといえる。
 


■我が国企業によるレバレッジの調整速度

一橋大学大学院商学研究科博士後期課程  吉田 隆
 一橋大学大学院商学研究科  小西 大

[要約]

本稿は、1999年度から2011年度までの我が国上場・非上場企業のデータを用い、株式公開がレバレッジの調整速度に与える影響、及び金融危機が我が国企業の調整速度に及ぼした影響を分析した。主要な分析結果は以下の通りである。第一に、株式公開はレバレッジの調整速度を約1.7倍に速めること、またその影響は、他の企業属性が調整速度に及ぼす影響より大きいことが見出された。第二に、金融危機の影響については、我が国企業のレバレッジの調整速度が2007年度から2010年度までの時期に、それ以前に比べて低下したこと、また調整速度を速めるという株式公開の影響がこの時期に、それ以前に比べて弱くなったことが見出された。



■ファミリー企業と資本構成

一橋大学大学院商学研究科博士後期課程  太宰 北斗

[要約]

日本も含め、世界の大企業にはファミリー企業が多く存在することが知られている。一方で、日本に関する限り、ファミリー企業に焦点を当てた研究はまだ少ない。本稿では日本のファミリー企業の資本構成について分析し、創業者一家が資本構成に与える影響を検証した。分析の結果、一定の株式を保有するファミリー企業で非ファミリー企業より高い負債比率が示され、創業者一家が議決権の保持を目的に資本構成を選択していることが示唆された。さらに本稿では増資行動についても分析した結果、こうしたファミリー企業では業績が悪化している時期に増資を避ける傾向が見られ、実際に議決権の希釈化が避けられていることも示唆された。また、増資手段として公募増資を選択し、株式を分散させることで外部に大株主ができるのを避ける傾向も観察された。一方、デフォルトリスクへの回避的な傾向は分析全体を通じてほとんど見られなかった。