『現代ファイナンス』バックナンバーNo.37(2016.3発行)

■株式市場における特許情報の価値関連性に関する実証分析
ニッセイ基礎研究所金融研究部  井出 真吾
 早稲田大学大学院ファイナンス研究科  竹原 均

[要約]

本研究においては、代表的な非財務情報である特許情報について、その価値関連性について検証する。多くの日本企業にとって技術力は収益性と競争力の重要な源泉であり、技術力の数値尺度としての特許情報が株式市場における期待形成にどのように反映されているかを確認することは、ファイナンス、会計学、経営学における重要な研究課題の一つであろう。本研究では、取得特許数、引用件数だけでなく、独占排他的技術利用権に着目した特許の質の指標を併用した分析を実施し、その結果から特許情報と企業価値・収益性の間に統計的に有意な正の相関関係が存在することを確認した。また特許件数、引用件数、排他的技術利用権の中では、特に排他的技術利用権と企業価値との関連性が強く、競争力に直結する経済的価値を伴う特許取得が企業価値の創出において重要であることが示された。



■日本企業の現金保有と流動性管理─サーベイ調査による分析─

東京理科大学経営学部  佐々木 隆文
 東洋大学経営学部  佐々木 寿記
 法政大学経済学部  胥 鵬
 中央大学総合政策学部  花枝 英樹
 

[要約]

本研究では日本企業を対象に流動性保有の動機、目的をアンケートにより調査し、(1)日本企業においても米国を含めた外国企業と同様、予備的動機が余剰資金保有の最も重要な動機となっていること、(2)日本企業における余剰資金保有では、消極的な予備的動機(将来のキャッシュフロー不足への備え)のみでなく、積極的な予備的動機(将来、予想外の投資機会が生じた場合への備え)も同じくらい重要な動機となっていること、(3)当座貸越の利用やメインバンクへの信頼感がコミットメントライン未設定の要因になっていること、(4)余剰資金保有の背景に直接金融へのアクセスが限定されているとの認識があること、(5)銀行への信頼感は積極的な予備的動機による余剰資金保有のみを代替し、積極的な予備的動機による余剰資金保有を代替しないこと、(6)ガバナンスのあり方が流動性手段の選択に影響を及ぼすなどの知見を得た。 

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■貸金業者と銀行の審査方法に関する比較分析

神戸大学大学院経営学研究科  内田 浩史

[要約]

本稿の目的は、融資における貸金業者と銀行の審査方法の違いを明らかにすることである。本稿では、中小企業に対するアンケート調査から得られたデータを用い、貸出技術に関する分析手法を貸金業に応用して、銀行の貸出技術との比較を行った。その結果、銀行業においては財務諸表貸出、リレーションシップ貸出、担保保証貸出という三つの貸出技術が重要であるが、貸金業者は専ら財務諸表貸出のみが重要であり、担保や保証もある程度重要であるが、リレーションシップ貸出は重視していないことが分かった。また、銀行が貸金業者よりも丁寧に審査を行っていること、あるいは貸金業者は多くの審査項目をあまり重視せず貸出を行っていることを示唆する結果も得られ、貸金業界が銀行の審査にただ乗り(フリーライド)している可能性も示された。