■メインバンク・システムによる企業経営のコントロール
Terry A. Marsh
[要約]
本稿では,経営者によるモラルハザートの問題,すなわち,経営者は過剰な投資を好み,いかなる状況においても企業の存続を望み,資産の部分売却を通じて企業のリストラを好まないという問題を日本のメインバンク・システムが解決することができるのか否かが論じられる.なお,メインバンク・システムを考える際には,メインバンク自身によるモラルハザードの問題も考える必要がある.すなわち,メインバンクは過剰に資産を売却したり,企業の解散に関して最適な決定を行わない可能性がある.本稿においては,長期と短期の負債比率,及び,資産売却を行った際の,銀行の間での売却益の分配方法があらかじめ適切に定めておかれるならば,日本のメインバンク・システムはこれらのエージェンシー問題を解決することができることを示す.
*本稿の作成にあたっては,レフェリーおよび編集者の谷川寧彦氏から有益なコメントをいただきました.ここに記して感謝します.ただし,本稿に含まれる誤りはすべて筆者の責任です.
■日本企業のエージェンシー・コストに関する実証分析
NEC総研/横浜市立大学大学院博士課程 手嶋宣之
[要約]
本論文は,経営者の株式保有という点に着目して,企業のエージェンシー・コストに関する実証分析をおこなう.その方法として,本論文は,エージェンシー理論に基づき,オーナー企業と非オーナー企業の間に存在する,エージェンシー・コストの差,並びに,この差によって生じる両者の間の財務行動の違いについて,三つの仮説を提示し,これを検証する.エージェンシー理論からは,第一に,株主と債権者の間に存在するエージェンシー・コストは,オーナー企業の方が大きい,と考えられる.この結果,オーナー企業は相対的に低いレバレッジを持つと予測される.第二に,オーナー企業の方が,経営者と資本提供者の間のエージェンシー・コストが大きいため,相対的に企業価値が低いと推測される.第三に,このようなエージェンシー・コストの差を前提とすれば,オーナー企業の方が,負債構成の決定にあたって,銀行のモニタリング効果を利用しようとする要因が働きやすい,と推論される.実証分析からは,以上の三つの仮説と整合的な結果を得ることができた.
*本論文の作成にあたっては,レフェリーおよび編集者の倉澤資成氏から大変有益なコメントを頂戴した.また,David Scharfstein氏(マサチューセッツ工科大学)と丸山宏氏(横浜市立大学)からも,関連論文や貴重な助言を拝受した.ここに謝辞を申し上げたい.
■オープン型投資信託のパフォーマンスとダイリューション効果
筑波大学社会工学系 竹原 均
[要約]
本研究ではオープン型投資信託のダイリューション効果を近似的に測定し,同効果のパフォーマンス評価に与える影響について議論を行う.分析の結果,一部のオープン型投資信託において特に1980 年代後半にダイリューションの影響が大きいことが確認されたものの,時価総額加重平均収益率が著しく低いという現象をダイリューション効果により説明することは困難であることが明らかとなった.
*本研究の実施に際して「文部省データバンク・プロジェクト研究助成金」からの支援を受けたことに感謝する.また国際大学平木多賀人氏,立教大学白石典義氏,MTBインベストメントテクノロジー研究所高山俊則氏,香港科学技術大学Prof. K. C. Chan及び山田健氏から多くの有益なコメントをいただいたことに感謝したい.むろん論文に残されたすべての誤りは筆者の責任に帰する
■グローバル均衡モデルによる国際分散投資へのインプリケーション:
均衡における自国証券オーバーウェイトの正当性
安田年金研究所 中島英喜
[要約]
グローバル資産市場の均衡モデルを定式化し,これを具体的な市場にあてはめることで,以下のインプリケーションが示される.まず,市場が完全で投資家が合理的な予想を抱くなら,各国投資家のリスク回避度や資本収支の不均衡,もしくは評価基準の違い(名目・実質)といった前提条件の違いにかかわらず,グローバル市場ポートフォリオの証券部分を,各国投資家共通の効率的ポートフォリオ看做すことができる.この時,為替リスクは完全排除が基本となる.また,市場が不完全で,為替リスクを排除しきれない場合でも,価格調整が弾力的であるならば,自国「証券」のオーバーウェイトは発生しない.一方,外国証券に対し.何らかのネガティブバイアスがかかる場合,自国証券のオーバーウェイトが発生する.この時,自国証券オーバーウェイトを説明するのに必要なバイアスが,現実の投資コストで説明できないのなら,自国証券オーバーウェイトの是正により,運用の効率性を改善できる.
*本稿を執るにあたり,斎藤進氏(上智大学)より多くの助言を頂いた.また,本稿の構成・内容について,レフェリーと編集者の浅野幸弘氏より丁寧かつ有益な助言と批評を頂いた.ここに厚く御礼申し上げたい.なお言うまでもなく,本稿に錯誤があれば,著者の責任である.