■資産価格モデルの現状:
消費と資産価格の関係をめぐって*
[要約]
本論文の前半では,Hansen/Jagannathan[1991,1997]らによる,確率的割引ファクター表現を用いた資産価格モデルの評価の方法について,近年の発展を概観する.後半では,前半で紹介された方法論を用いて,日本の産業ポートフォリオのデータについて実証分析を行い,特に消費CAPMのパフォーマンスを中心に議論・検討する.さらに,日本のデータを用いた消費CAPMのパフォーマンスに関して,既存の研究において肯定的・否定的見方が共存する理由を探り,その幾分かが,日本の消費データの特殊性に起因するであろうことが示される.代表的個人を仮定した消費CAPMは,資産価格モデルとしては,実用上はまったく役に立たないと言ってよいが,ポートフォリオ選択の視点や非同質的な投資家の存在を考えた場合には,依然,追求されるべきさまざまな問題が残っている.
*本論文は日本ファイナンス学会の研究観望会(1999年11月)向けに執筆した論文を,大幅に改訂したものである.梶井厚志氏,高橋一氏,本多俊毅氏,渡部敏明氏,日本ファイナンス学会研究観望会,1999年度JAFEE冬季大会,2000年度CIRJE・TCERマクロ・コンファレンスの参加者,および本ジャーナルのレフェリーとエディターの宇野淳氏からは,有益なコメントをいただいた.とりわけ竹原均氏,和田賢治氏の論文全体に関するコメント,李明宰氏とのGMM推定に関するディスカッションは非常に有益であった.また第4節で検討した内容については,大橋和彦氏によって,そのような分析の必要性が強調されなかったら,あえて取り上げることはしなかったであろう.研究助手の大平亮氏(筑波大学大学院社会工学研究科/三菱信託銀行)には,データの準備や図表の用意で大変お世話になった.以上の方々に深く感謝する.本研究は「日本証券奨学財団」,「文部省データバンク・プロジェクト研究助成金」による助成を受けている.
■業績予想,業績サプライズとバリュー株効果
日経QUICK情報株式会社 金融工学部 渡部 肇
東京大学大学院経済学研究科 小林孝雄
[要約]
この研究の目的は,市場の過剰反応説によってどの程度バリュー株効果を説明できるかについて,日本の株式市場を対象に検討することである.本研究では,アナリストのコンセンサス予想に基づいて計算した市場のサプライズの符号と大きさで,市場の過剰反応をとらえる.この場合,バリュー株効果に対するもっとも直接的な解釈は,ファンダメンタルズを過小評価されがちなバリュー株は,業績サプライズがプラス方向に大きく出る傾向があり,その結果リターンは平均的に高くなる,というものである.もうひとつの解釈は,バリュー株はポジティブ・サプライズに強く反応し,その結果平均的なリターンが高くなる,というものである.バリュー株効果に対する業績サプライズの説明力は上記いずれの解釈についても限定的で,バリュー株効果についてはそれ以外に説明要因(リスク要因)があるはずというのが,分析から得られた結論である.論文末尾では,アナリスト予想から計算した株主価値推計値への株価のさや寄せ行動について,過剰反応説とは別個の市場非効率性仮説ととらえて説明する.
*この研究に用いたデータはすべて,日本経済新聞社電子メディア局に提供していただいた.同局のご厚意に感謝いたします.
■日経平均株価の銘柄入れ替えが個別銘柄の流動性に与えた影響について*
大阪大学大学院経済学研究科 齋藤 誠
大阪大学大学院経済学研究科修士課程 大西雅彦
[要約]
本研究は,2000年4月24日に実施された大幅な日経平均株価構成銘柄の入れ替え(225の構成銘柄のうち30銘柄採用,30銘柄除外)が,個別銘柄の市場流動性や株価構成に与えた影響を分析している.本研究の分析から得られた主要な結果は以下のとおりである.(1)銘柄入れ替え発表時点をはさんだ東証株価指数の変化率に比して採用銘柄の株価変化率が高く,除外銘柄の株価変化率が低くなっている.ただし,除外銘柄全体としては,発表後半年の間に相対的な下落を相殺するように株価が回復している.(2)銘柄入れ替え発表前に比した発表後の出来高の変化は,市場の平均的な出来高の変化に比較して,採用銘柄,除外銘柄ともに増加しているが,発表後4ヶ月以降は採用銘柄の流動性が高まり,除外銘柄の流動性が低くなる傾向を示している.(3)銘柄入れ替え実施直前に日経平均株価指数先物価格がその理論値から大きく乖離したのは,銘柄入れ替え発表直後のポジション調整を反映して,継続採用銘柄においても株価が一時的に割安状態になったことを示唆している.以上の実証結果に基づいて,銘柄入れ替えの望ましい実施方法について議論している.
*本稿の作成に当たっては,谷川寧彦氏,大屋幸輔氏に貴重なコメントをいただいた.執筆者の1人である齋藤は,文部省科学研究費(特定領域研究B,課題番号12124207)の助成を受けている.ここに謝辞を申し上げたい.